第1回-03 ストーリーボードの組み立て方

一流コンサル独特の言い回し

マッキンゼーという会社をご存知だろうか。世界一と言われている超一流の経営コンサルタント会社だ。彼らの文書は知性にあふれ説得力がり、ついつい納得させられてしまう。しかし、何度も彼らの文書を読んでいると、独特のストーリーボードを組み立てていることがわかる。慣れてくると、ビジネス雑誌や書籍などを読んでいる際に、ストーリーの組み立て方で「あれ、この筆者はマッキンゼー?」とピンとくる。マッキンゼー出身者でなくとも、同じストーリーボードを使っている著名人が多くいる。例えば、土曜日の晩にTBSで「ブロードキャスター」というニュース番組をやっている。数年前にこの番組のコメンテーターを行っていたジョージ・フィールズという外人さんがいた。オーストラリア人だそうだが、日本人よりうまいのではと思うほどの日本語がお上手だが、それ以上に彼のコメントは非常にわかりやすく説得力があり好評を博していた。彼もここで紹介するストーリーボードと全く同じ方法使っている。それ以外にも、「朝まで徹底討論」に出演する多くの論客達も同じ方法を使っている。これ以降のページで、さまざまな具体的な例を示しながら、この超一流コンサルタントや著名人達が頻繁に活用するストーリーボードの組み立て方を紹介して行こう。

ストーリーボードの組み立て方

「結論」→「その理由」→「さらに詳細な理由」

ストーリーボードの組み立て方は、図3に示す通り「結論」から記載する。その理由は追って解説するとして、まずストーリーボードの各部分について説明しておこう。

最初の「導入部」は、直接本文には関係ないが、報告者と受け手が同じスタート地点に立つための準備部分である。「結論」から報告するとは言っても、開口一番に突然「結論」を言っても(書いても)、受け手に準備ができていないと何のことだか理解できない。図3の記載例のように「これは何の報告会なのか?」、そもそもの目的や今までの経緯についてできるだけ簡潔に説明する。決してくどくどと説明したり、こちらの考え方を盛り込んだりする部分ではない。できるだけシンプルに共有している既知の事実だけを述べる。

その後「本文」に入り「結論」を伝える。この「結論」部分は、なぜそのような「結論」に至ったかという理由は一切記載せず、最終的な「結論」だけを明確に言い切る。報告する内容が「なんとも言えない」という中途半端な結論であっても、「最終的に良いか悪いか判断はできない」という「結論」をハッキリと言い切る。ここでくどくどと説明したり、「結論」に至った理由や経緯を補足したり、報告側の主張や考えなどは述べない。できるだけ簡潔に「結果」だけを伝えることが重要だ。なぜなら、受け手が「結論」だけを聞かされて、「なぜ?」と思うことがストーリーボードの展開で非常に重要だからである。受け手が「なぜ?」と思うことで、次の「その理由」にスムーズにストーリーが運ぶ。余計な情報や特定の考えが入り込んでしまうと、そこで議論になったり意見が出たりしてストーリーがスムーズに進まなくなる。「なぜ?」という疑問を受け手に持たせて、それに答えるという形で次へ進むのが秘訣だ。 次に、「結論」に対する「理由」を一つひとつ解説して行く。ここでは、詳細な理由を細かく説明するのではなく、最も大きな理由を列挙する。細な情報を説明しない理由は、ここでも受け手に「なぜ?」という疑問を持たせ、それに対して更に詳細な「理由」を説明するという流れを作り、受け手が興味を示す方向にストーリーを展開して行く。これによって、議論が紛糾したり、詳細な内容でひっかかったり、話が別の方向に流れるのを防ぐのである。そして、ストーリーボードは更に「細かな理由」を説明するということを繰り返して行く。

「方法論を知る」より「効果を知れ」

ストーリーボードは、まず初めてに「結論」を述べ、その後にその「理由」について順を追って細かく説明して行くと述べた。このストーリー展開を図で示すと図4のような構造となる。勘の鋭い読者はこの図を見て、「ロジックツリーのことか」とピンと来るだろう。数年前に「ロジカル・シンキング」が流行し、「ロジックツリー」がさまざまな書籍や雑誌に取り上げられた。そして、いろいろな「ロジックツリー」の作り方が紹介されてきた。しかし、ここではそういった方法論には触れない。なぜなら、これらの多くは習熟が必要であり、すぐに実践で使えない。それどころか、正直言って実践には使えない方法も多く見受けられる。時間を費やしてこういった方法論を学ぶより、図4に示す構成が組めれば方法は問わない。また、今回の連載はコンサルのテクニックを「盗む」ことが目的であり、明日から使える実践的な方法を紹介する。お手軽な手法は後半で紹介するとして、まずはその効果を解説しよう。

「起承転結」や「時系列」は最悪の報告書

多くの報告会や報告書で、「起承転結」や「時系列」で説明している報告を見る。しかし、これらは最悪の報告書だと言わざるを得ない。なぜなら、「起承転結」というのは、物語や小説など話をおもしろおかしくするための方法であり、報告書に活用すると「話としてはおもしろいが、それに予算をつけるわけには行かない」という結果に成り兼ねない。また、最後に「結論」が来ることから、最後の質疑応答の場で「理由」を改めて問われ、それまでに説明した内容を改めて繰り返すことになる。「時系列」の場合は、ただ淡々と時間の流れに沿って事象が述べられているだけで「結論」が見えない。「結論」がわかってから、何度か読み直さないと報告のポイントがわからない。そもそも「時系列」は手順やプロセスを説明する際の方法であり、何かを理解させる方法ではない。例えば、自動車教習所で免許証を作る際、番号が記載された窓口をあちこち回るが、何をしているのか今一理解できない。指示にしたがって順に回ると、とりあえず最後に免許証をくれる。「時系列」で説明すると、これと同じ状態に陥る。

では、以降のページで「結論」から述べるストーリーボードと「起承転結」、「時系列」のストーリーボードを具体的に比較してみよう。