第1回-04 ストーリーボードの実例

「結論」から述べるストーリーボードの例

テレビでおなじみのニュースを思い出してほしい。ニュースは一種独特の言い回しをする。「本日未明、東京都目黒区の路上で住所不定無職の、、、」などという具合である。実はニュースで活用されているストーリーボードは、ここで紹介している「結論」から述べる典型である。つまり、万人にわかりやすく簡潔かつ正確に報告する際、この方法が最も優れた方法なのである。ここでは例文に以下のニュース記事を使用し、「起承転結」や「時系列」と比較してみよう。

「本日未明、東京都目黒区の路上で男が強盗未遂と銃刀法違反で逮捕された。男は住所不定の土木作業員、山田太郎(35歳)。不審なバッグを持って目黒区3丁目付近の住宅を調べて回っているところ、不審に思った近所の住民が通報し、駆けつけた警官に短銃の所持を発見され逮捕された。調べに対し男は、消費者金融に多額の借金があり、金のある家に押し入って金品を奪おうとしていた。なお、所持していた回転式短銃と銃弾5発は友人の暴力団員から借りたと供述している。」

この例文は、一般的によく見るニュースの語りである。このストーリーボードを図解したものが図5である。まず始めに「男が逮捕された」という「結論」述べ、次に逮捕された「理由」を3つ説明している。1つ目の理由は「強盗しようとしていたから」であり、2つ目は「近所の人が通報したから」、3つ目は「短銃を所持していたから」である。そしてこの3つの理由について、さらにその理由を述べて詳細な情報を提供して行く。例えば、「強盗しようとしていた」の理由は、「多額の借金を抱えていたから」であり、

「近所の人が通報した」理由は、「(目黒区3丁目周辺の)住宅を調べて回っていた」である。また、「短銃を所持していた」の理由は、「友人の暴力団に借りたから」である。

この方法の場合、最初の段階から何について説明しているかを理解できるため、読み進むにつれて詳細な情報となり理解が深まって行く。もし細かな情報が不要であれば、記事の冒頭を読むだけで概要はつかめる。

「起承転結」のストーリーボードの例

一方、この記事を「起承転結」の流れで記載すると図6のようになる。この方法の場合、大きな問題が2つある。1つ目は、議論があらぬ方向に展開してしまう事、2つ目は前半部分の報告が忘れられてしまうと事だ。「起承転結」は小説や物語を読み聞かせる方法なので、「昔々、ある男がおりました」とまでは言わずとも、結論が見えない状態で話が進む。ニュース番組で、キャスターが結論を言わず「XXXという男がいた」、「この男は借金があった」、「友人に暴力団員もいた」などという順で話すとどうだろうか。講談師さながらだろう。聞いている方は最後になるまで何が言いたいのかわからない。強盗なのか、放火なのか、人が死んだのか、事件なのか、事故なのか。わくわくして聞ける人もいるだろうが、回りくどいとイライラする人も多いだろう。

それでは、この方法の1つ目の問題である議論があらぬ方向に展開する具体例を、図6で詳しく見てみよう。例えば、図6の「起」と「承」で受け手が得る情報は、「借金を抱えた住所不定の土木作業員の男が、友人の暴力団員から短銃を借りた」という内容だけである。受け手はこれだけ情報しかないため、「住所不定なのになぜ借金ができたのだろう?」とか、「土木作業員には暴力団関係者が多いのだろうか?」などという疑問がわき起こってくる。これが報告会なら、主題でないどうでも良い部分でひっかかり、これらの問いに曖昧に回答すると、「調査が不十分だ」とか、「論理的につじつまが合わない」などと指摘される。とどのつまり、「では再調査をして報告します」などと余計な作業を受けてしまう。もちろん、同じ疑問は図5の「結論」から述べるストーリーでも起きる可能性はあるが、きわめて希だろう。なぜなら、先に「結論」を述べているので、送り手が言いたい主題は「夜中に銃を持った男がうろついており、物騒な世の中になった」であることが容易に理解できる。これにより、男が住所不定であるとか、友人が暴力団員だったという細部は主たる疑問とならない。ところが「起承転結」は、始めに部分的な情報しか与えられないので、そこが主題であるかのごとく注力してしまう。

2つ目の問題である報告の前半部分を忘れるという点についても解説しておこう。「スティング」という有名な映画をご存じだろうか。ご存じなければ小説でもドラマでも良いので、結末で予想外の大ドンデン返しするストーリーを思い出してほしい。見終わった後に、「そうか。あのシーンはこのためにあったのか。」などと回想するが、全てを思い出すことはできない。この手のストーリーは、「結論」を知った後に二度目を見るといろいろな事が見えてくる。一般的に人間が一度に覚えられる事象は3~4つ程度、多くても7つまでだそうだ。「起承転結」ですばらしいストーリーの報告書を作っても、きっちりと理解してもらうためには、二度読んでもらう必要がある。

「起承転結」のストーリーで報告することがいかに危険なことであるか理解いただけただろうか。読者の周囲にある様々な報告書を見直していただきたい。「結論」から書いていない報告書が意外と多いはずだ。

「時系列」のストーリーボードの例

「時系列」で述べる場合は、もっと理解できない。「時系列」は時間の経過に沿って事象を知る場合以外は使うべきではない。例えば、調書だとか、事故発生後の対応だとか、プロセスなどの手順説明だけである。図7に「時系列」のストーリーボードの例を示した。住民の通報から逮捕までにどれだけの時間がかかったかを知るためであればこれで良いが、はじめてこれを見せられると、それぞれの事象の関係を見つけ出すために何度も読み直す必要がある。例えば、図7の3日昼過ぎの「短銃を借りた」は、最後の「所持を発見され逮捕された」につながるが、こういった関連を見つけにくい。同じく最初の「多額の借金」は、最後の「金品を奪おうとした」の理由であるが、良く見ないと関係が見えてこない。見方によっては、最初の借金については他と無関係に述べられているように見え、この男がどんな人間か紹介しているだけに見える。この例は単純だが、複雑な内容を「時系列」で説明すると、こういった関係はほとんど理解できない。また、この例では「結論」が最後に来ているが、時間に沿って列挙するだけの方法なので、「結論」がどこに出てくるかわからない。

図5、6、7の3例をよく比較して見てほしい。「結論」から述べる重要性が良く理解いただけるだろう。なお、本連載はコンサルのテクニックを「盗む」ことが目的なので、即実践できるお手軽な手法を次に紹介しよう。