これ1つで「何でも来い」の実践手法
ここまで解説した内容でストーリーボードを構成すれば、簡潔で理解しやすい報告書を作成できる。しかし、多くのスタッフを抱え時間的な余裕がないプロジェクトでは、前述の内容を教育し周知することは難しい。そこで、以下に紹介する方法を覚えておこう。スタッフに細かな指導をしなくとも、以下のテンプレートを活用すると手軽に「結論」から述べる報告書を作らせることができる。
「What-Why-How to」法
「What-Why-How to」法とは、図8に示す通り、文書を3つの章立てで作らせることにより、「結論」から述べる報告書や提案書を作成する方法だ。
第1章の「What?」は、「我々はなぜそれをすべきか?」というタイトルのもと、「導入部」と「結論」だけを記載する。図8のようにそれぞれ各1ページで計2ページだけの構成で良い。2ページだと内容が薄いとむやみにページ数を増やすことは避けよう。忙しい役員などは結果だけを知りたがるため、シンプル・イズ・ベストを心がける。次に第2章の「Why?」で「結論」の「理由」を述べる。この「理由」は、先に図4で示したように、大きな「理由」を先に述べ、次に詳細な「理由」へと説明して行く。そして最後の3章の「How to do?」で、具体的な進め方、体制、スケジュール、見積もり、制限事項や取り決め事といったことを記載する。
より具体的にイメージできるよう表1にWebによるセルフ購買システムを導入に関する報告例を示した。紙面の都合でパワーポイントの報告書例を掲載できないため、要点だけを表形式でまとめている。
「決議-討議-次のアクション」法
報告書の類で頻繁に作成するのが会議の議事録だろう。議論が紛糾した会議などを議事録にまとめるのは意外と骨が折れる。また、頻繁に議事録が送られて来る管理職方は、討議内容がダラダラと書かれた議事録にうんざりしている方が多いだろう。そこで、「結論」から述べるストーリーボードを活用し、テンプレート化しておくと作成する側も読む側も効率的だ。図9に示す通り、会議の「結論」である「決議事項」を最初に述べる。その後に、その決議に至った「理由」を「討議内容」に記載する。そして最後の「次のアクション」に「決議事項」で確定した内容を今後どのように進めて行くか記載する。
なお、一方的に情報を伝えるだけの報告会や連絡会などの場合、ここで紹介するフォーマットは必要ない。しかし、そのような会議が本当に必要であるか再検討することをお勧めする。単に状況報告だけであれば、今や電子メールで十分に用が足りるだろう。また、「決議事項」なしに終わる会議についても、この会議は何を決めるのか、目的を明確にしてスタートするよう進め方を再検討すべきだ。
著名人の話法
最後に文書ではなく、口頭で話す場合について解説する。冒頭で述べた通り、「ブロードキャスター」の元コメンテーターや「朝まで徹底討論」の論客たちは、論理的で解りやすい説明を行う。実は彼らもここで紹介した「結果」から述べるという方法を活用している。テレビなどで彼らの話法を注意して聞いてもらいたい。まず始めに「結論」をズバリと言う。その後に「理由は3つあります。」と付け加え順に理由を説明して行く。特に「朝まで徹底討論」などを見ていると、発言者が最初に「結論」をズバッと言い、周囲からワッと反論が返ってくるが、それを遮りながら「理由」を述べる。白熱していても、内容や主題はきっちりと理解できる。まれにディベートに不慣れな評論家や政治家が出演すると、「結論」を述べずに「理由」から話し出し、俵宗一郎に話を切られてしまう。「理由」が3つあるとか、ポイントは2つだとか言わずに「理由」から話し出すと、どこまで話が続くのか不明だし、「結論」が解らずに聞いても、賛成意見か反対意見か解らない。このため、「何が言いたいの解らないよ」とピシャッと話を切られてしまうのだ。
では最後に、「結論」を話し「理由」を述べる話法を、ニュースのネタを例にとって見てみよう。
キャスター:「オレオレ詐欺の被害者は3万人に達し、全国規模で広がっています。そして、その犯行に及んでいるのはニート世代の若者グループです。冷静に判断すればひっかかるような手口ではないのですが、いかがでしょうか。」
コメンテーター:「これを単なる詐欺事件として考えるべきではないと思います。一種の社会現象として捕らえ、社会全体で対策を検討すべきです。その理由は3つあります。
1つ目の理由は、お金持ちだけれど孤独な老人がいかに多いかということです。核家族化が進んだうえに老齢化が襲い、親子の関係か疎遠になっている証でしょう。家族の絆や地域での老人ケアを考え直す必要があります。
理由の2つ目は、ニート世代と呼ばれる若者と老人の格差問題です。近年の就職難から、若者世代の収入源は激減しています。犯罪に走る若者が多い一方で、使い切れない年金を子供に仕送りしている老人がいます。こういった格差を政府主導で解消する必要があるでしょう。
最後に3つ目の理由は、デジタル機器などコミュニケーションツールのリテラシーです。携帯電話が普及し、いつでもどこからでも電話をすることができるようになりました。今事故を起こしたとか、今警察にいるとか、どこからでも連絡を取れるため、臨場感のある嘘を演出できます。デジタル機器はコミュニケーション手段を格段に進歩させましたが、高齢者はこれについて行けません。相手が誰なのか知るための番号表示などの使い方を、お年寄りにわかりやすく理解してもらう方法が必要でしょう。」
報告会の質疑応答などで、顧客の役員から鋭い質問を受け、間髪入れずに答え出すが、結局のところ何が言いたいのか解らないというケースを良く見る。回答した後に「これでお答えになっているでしょうか?」などと付け加えるが、残念ながら答えになっていない。人前で臆せず饒舌に語る方にこういうケースが多い。話ながら次に言うことを考え、次から次へと話すが、このやり方は意外に伝わりにくい。質問を受けたら一旦じっくり考え、結論を探すべきだ。多少の沈黙など気にする必要はない。頭の中で結論を決めて、理由を3~4つ考える。2つ以下だと論拠が弱く思われるし、5つ以上になると受け手が消化できない。慣れてくると、相手の質問を聞きながら「結論」と「理由」を考えることができるようになり、間を開けずに回答できるようになる。今回紹介した話法を身につけると、同じ内容でも話し方によって、相手の理解に大きな差が出ることに気づくだろう。
以上、今回はコンサルタントのテクニックの基本であるストーリーボードを解説した。次回から数回の連載で、コンサルタントのロジックの基礎である「仮説検証法」や、説得力の高いチャートの作成法など、より具体的で実践的な内容に踏み込んで行こう。