第1回-01 成果物、報告書作成のポイント

顧客の経営陣をはじめステークホルダー(利害関係者)に課題やその原因を理解させ、こちらの提案に賛同してもらうことは容易ではない。
そういった中で、コンサルタントは論理的な分析で解決策を導き出し、顧客の賛同を勝ち取って行く。ビジネスの課題解決にITが多用される今日、アーキテクトもこういった実践的なテクニックの活用が求められている。

本投稿では、ビジネスマンにぜひ盗み取ってほしいコンサルタントの問題解決法テクニを伝授し、より顧客満足の高い成果を勝ち取ってもらいたい。

第1回-01 なぜ報告書は理解されないのか?

数年前のことだが、東京のとあるホテルで開催されたITフェアでの話しである。企業の情報システム関係者達が大ホールに招待され、さまざまな質問に対して手元の押しボタンで回答するという企画があった。その中で「情報システム投資の最も障害となっている事は何か?」という質問があった。その答えは、社員のITリテラシーでも、過去の資産の陳腐化でも、バックログの多さでも、システム投資額の高さでもなかった。圧倒的多数を得た回答は、なんと「稟議の内容を理解してもらう難しさ」であり、自社の経営陣に理解してもらうことの難しさであった。

多くの読者も、経営陣やステークホルダーに対する説明の難しさを感じたことがあるはずだ。プロジェクトの報告会などで、苦労した数ヶ月間の成果を報告書にまとめてプレゼンテーションする。課題の原因究明や解決策の提言などを行うが、調査の甘さを指摘されたり、分析のロジックにケチが付いたり、図表のわかりにくさや数値の誤りに固執される。ひどいケースでは最後の質疑応答で、それまで説明したことを再度聞かれ、同じ説明を繰り返す。今までの説明を全く理解していなかったのかと落胆する。真に伝えたいことが伝わらないとか、説明の途中で議論が紛糾し結論までたどり着かない。プロジェクトの報告会でよくある光景である。

こういった事態に陥る原因は、さまざまな事に起因しているように見えるが、実はある一つの問題を解決するだけで一変する。それが本日ご紹介するストーリーボード(報告書のシナリオ)である。報告書のシナリオだけで事態が一変すると言うと、いささかいかがわしいと思うだろうが、ぜひ騙されたと思ってここに書かれていることを一度試していただきたい。おそらく、その効果を実感していただけるはずである。

第1回-02 ストリーボードの秘訣は「結論から述べる」

今回指南するストーリーボードとは、報告書のストーリー立て、つまりシナリオの組み立て方である。それも難しい話ではない。結論から言ってしまえば、報告や提案はまず「結論から説明する」というただそれだけのことである。いたって簡単なことのようであるが、これが意外と実施されておらず、それによってとんでもない結末となってしまう報告会が実に多い。以降を読んでいただくと、「結論から説明する」という方法がいかに重要なことであるか理解いただけるはずである。 また、それがなぜ絶大な効果を発揮するかということも十分理解いただけるだろう。

難しさの本質

自分の頭の中にあるイメージを、そっくりそのまま他人の頭の中に再現することは非常に難しいことである。例えば、あなたが頭の中に何らかの風景を思い浮かべ、それを絵に描いたとする。そして、その絵を見せずに言葉で説明して、全く同じ絵を他人に描いてもらうとすると、これは至難の技である。あなたの説明がまずいと、相手は何度も絵を消しゴムで消して書き直さなければならないだろう。

例えば、あなたが図1に示すような風景を描いたとしよう。これを口や文章で相手に説明する。図1のような順序で説明したとしよう。このような順で話をした場合、相手は何回か消しゴムで絵を消して書き直すだろう。例えば、①番目に山を描いてから、⑤番目で山の山頂付近を消して雪を書き直す、④番目で湖の一部を消して船を描く、もしその船を手漕ぎボートだと思って描いたなら、⑥番目でヨットに書き直すといった具合である。

図1 言葉(文章)による伝達

なぜこのようなことになるかと言うと、話や文字による情報伝は相手にシリアルにしか情報を送ることができない。図2に示す通り相手はそれを順番に受け取って自分の頭の中でイメージを組み立てて行く。このため情報の伝達順序を誤ると、こちらのイメージとは異なる形になって相手の頭の中に組み立てられる。

図2 情報伝達の仕組み

事実を忠実に伝えなければならない報告書においても、そのシナリオであるストーリーボードを誤ると、こちらの意図がうまく伝わらないだけではなく、予想しない方向に展開し議論が紛糾してしまう。多くの報告書や提案書、プレゼンテーションでは、こういった最も基本的なことで失敗している例が実に多いのである。

第1回-03 ストーリーボードの組み立て方

一流コンサル独特の言い回し

マッキンゼーという会社をご存知だろうか。世界一と言われている超一流の経営コンサルタント会社だ。彼らの文書は知性にあふれ説得力がり、ついつい納得させられてしまう。しかし、何度も彼らの文書を読んでいると、独特のストーリーボードを組み立てていることがわかる。慣れてくると、ビジネス雑誌や書籍などを読んでいる際に、ストーリーの組み立て方で「あれ、この筆者はマッキンゼー?」とピンとくる。マッキンゼー出身者でなくとも、同じストーリーボードを使っている著名人が多くいる。例えば、土曜日の晩にTBSで「ブロードキャスター」というニュース番組をやっている。数年前にこの番組のコメンテーターを行っていたジョージ・フィールズという外人さんがいた。オーストラリア人だそうだが、日本人よりうまいのではと思うほどの日本語がお上手だが、それ以上に彼のコメントは非常にわかりやすく説得力があり好評を博していた。彼もここで紹介するストーリーボードと全く同じ方法使っている。それ以外にも、「朝まで徹底討論」に出演する多くの論客達も同じ方法を使っている。これ以降のページで、さまざまな具体的な例を示しながら、この超一流コンサルタントや著名人達が頻繁に活用するストーリーボードの組み立て方を紹介して行こう。

ストーリーボードの組み立て方

「結論」→「その理由」→「さらに詳細な理由」

ストーリーボードの組み立て方は、図3に示す通り「結論」から記載する。その理由は追って解説するとして、まずストーリーボードの各部分について説明しておこう。

最初の「導入部」は、直接本文には関係ないが、報告者と受け手が同じスタート地点に立つための準備部分である。「結論」から報告するとは言っても、開口一番に突然「結論」を言っても(書いても)、受け手に準備ができていないと何のことだか理解できない。図3の記載例のように「これは何の報告会なのか?」、そもそもの目的や今までの経緯についてできるだけ簡潔に説明する。決してくどくどと説明したり、こちらの考え方を盛り込んだりする部分ではない。できるだけシンプルに共有している既知の事実だけを述べる。

その後「本文」に入り「結論」を伝える。この「結論」部分は、なぜそのような「結論」に至ったかという理由は一切記載せず、最終的な「結論」だけを明確に言い切る。報告する内容が「なんとも言えない」という中途半端な結論であっても、「最終的に良いか悪いか判断はできない」という「結論」をハッキリと言い切る。ここでくどくどと説明したり、「結論」に至った理由や経緯を補足したり、報告側の主張や考えなどは述べない。できるだけ簡潔に「結果」だけを伝えることが重要だ。なぜなら、受け手が「結論」だけを聞かされて、「なぜ?」と思うことがストーリーボードの展開で非常に重要だからである。受け手が「なぜ?」と思うことで、次の「その理由」にスムーズにストーリーが運ぶ。余計な情報や特定の考えが入り込んでしまうと、そこで議論になったり意見が出たりしてストーリーがスムーズに進まなくなる。「なぜ?」という疑問を受け手に持たせて、それに答えるという形で次へ進むのが秘訣だ。 次に、「結論」に対する「理由」を一つひとつ解説して行く。ここでは、詳細な理由を細かく説明するのではなく、最も大きな理由を列挙する。細な情報を説明しない理由は、ここでも受け手に「なぜ?」という疑問を持たせ、それに対して更に詳細な「理由」を説明するという流れを作り、受け手が興味を示す方向にストーリーを展開して行く。これによって、議論が紛糾したり、詳細な内容でひっかかったり、話が別の方向に流れるのを防ぐのである。そして、ストーリーボードは更に「細かな理由」を説明するということを繰り返して行く。

「方法論を知る」より「効果を知れ」

ストーリーボードは、まず初めてに「結論」を述べ、その後にその「理由」について順を追って細かく説明して行くと述べた。このストーリー展開を図で示すと図4のような構造となる。勘の鋭い読者はこの図を見て、「ロジックツリーのことか」とピンと来るだろう。数年前に「ロジカル・シンキング」が流行し、「ロジックツリー」がさまざまな書籍や雑誌に取り上げられた。そして、いろいろな「ロジックツリー」の作り方が紹介されてきた。しかし、ここではそういった方法論には触れない。なぜなら、これらの多くは習熟が必要であり、すぐに実践で使えない。それどころか、正直言って実践には使えない方法も多く見受けられる。時間を費やしてこういった方法論を学ぶより、図4に示す構成が組めれば方法は問わない。また、今回の連載はコンサルのテクニックを「盗む」ことが目的であり、明日から使える実践的な方法を紹介する。お手軽な手法は後半で紹介するとして、まずはその効果を解説しよう。

「起承転結」や「時系列」は最悪の報告書

多くの報告会や報告書で、「起承転結」や「時系列」で説明している報告を見る。しかし、これらは最悪の報告書だと言わざるを得ない。なぜなら、「起承転結」というのは、物語や小説など話をおもしろおかしくするための方法であり、報告書に活用すると「話としてはおもしろいが、それに予算をつけるわけには行かない」という結果に成り兼ねない。また、最後に「結論」が来ることから、最後の質疑応答の場で「理由」を改めて問われ、それまでに説明した内容を改めて繰り返すことになる。「時系列」の場合は、ただ淡々と時間の流れに沿って事象が述べられているだけで「結論」が見えない。「結論」がわかってから、何度か読み直さないと報告のポイントがわからない。そもそも「時系列」は手順やプロセスを説明する際の方法であり、何かを理解させる方法ではない。例えば、自動車教習所で免許証を作る際、番号が記載された窓口をあちこち回るが、何をしているのか今一理解できない。指示にしたがって順に回ると、とりあえず最後に免許証をくれる。「時系列」で説明すると、これと同じ状態に陥る。

では、以降のページで「結論」から述べるストーリーボードと「起承転結」、「時系列」のストーリーボードを具体的に比較してみよう。

第1回-04 ストーリーボードの実例

「結論」から述べるストーリーボードの例

テレビでおなじみのニュースを思い出してほしい。ニュースは一種独特の言い回しをする。「本日未明、東京都目黒区の路上で住所不定無職の、、、」などという具合である。実はニュースで活用されているストーリーボードは、ここで紹介している「結論」から述べる典型である。つまり、万人にわかりやすく簡潔かつ正確に報告する際、この方法が最も優れた方法なのである。ここでは例文に以下のニュース記事を使用し、「起承転結」や「時系列」と比較してみよう。

「本日未明、東京都目黒区の路上で男が強盗未遂と銃刀法違反で逮捕された。男は住所不定の土木作業員、山田太郎(35歳)。不審なバッグを持って目黒区3丁目付近の住宅を調べて回っているところ、不審に思った近所の住民が通報し、駆けつけた警官に短銃の所持を発見され逮捕された。調べに対し男は、消費者金融に多額の借金があり、金のある家に押し入って金品を奪おうとしていた。なお、所持していた回転式短銃と銃弾5発は友人の暴力団員から借りたと供述している。」

この例文は、一般的によく見るニュースの語りである。このストーリーボードを図解したものが図5である。まず始めに「男が逮捕された」という「結論」述べ、次に逮捕された「理由」を3つ説明している。1つ目の理由は「強盗しようとしていたから」であり、2つ目は「近所の人が通報したから」、3つ目は「短銃を所持していたから」である。そしてこの3つの理由について、さらにその理由を述べて詳細な情報を提供して行く。例えば、「強盗しようとしていた」の理由は、「多額の借金を抱えていたから」であり、

「近所の人が通報した」理由は、「(目黒区3丁目周辺の)住宅を調べて回っていた」である。また、「短銃を所持していた」の理由は、「友人の暴力団に借りたから」である。

この方法の場合、最初の段階から何について説明しているかを理解できるため、読み進むにつれて詳細な情報となり理解が深まって行く。もし細かな情報が不要であれば、記事の冒頭を読むだけで概要はつかめる。

「起承転結」のストーリーボードの例

一方、この記事を「起承転結」の流れで記載すると図6のようになる。この方法の場合、大きな問題が2つある。1つ目は、議論があらぬ方向に展開してしまう事、2つ目は前半部分の報告が忘れられてしまうと事だ。「起承転結」は小説や物語を読み聞かせる方法なので、「昔々、ある男がおりました」とまでは言わずとも、結論が見えない状態で話が進む。ニュース番組で、キャスターが結論を言わず「XXXという男がいた」、「この男は借金があった」、「友人に暴力団員もいた」などという順で話すとどうだろうか。講談師さながらだろう。聞いている方は最後になるまで何が言いたいのかわからない。強盗なのか、放火なのか、人が死んだのか、事件なのか、事故なのか。わくわくして聞ける人もいるだろうが、回りくどいとイライラする人も多いだろう。

それでは、この方法の1つ目の問題である議論があらぬ方向に展開する具体例を、図6で詳しく見てみよう。例えば、図6の「起」と「承」で受け手が得る情報は、「借金を抱えた住所不定の土木作業員の男が、友人の暴力団員から短銃を借りた」という内容だけである。受け手はこれだけ情報しかないため、「住所不定なのになぜ借金ができたのだろう?」とか、「土木作業員には暴力団関係者が多いのだろうか?」などという疑問がわき起こってくる。これが報告会なら、主題でないどうでも良い部分でひっかかり、これらの問いに曖昧に回答すると、「調査が不十分だ」とか、「論理的につじつまが合わない」などと指摘される。とどのつまり、「では再調査をして報告します」などと余計な作業を受けてしまう。もちろん、同じ疑問は図5の「結論」から述べるストーリーでも起きる可能性はあるが、きわめて希だろう。なぜなら、先に「結論」を述べているので、送り手が言いたい主題は「夜中に銃を持った男がうろついており、物騒な世の中になった」であることが容易に理解できる。これにより、男が住所不定であるとか、友人が暴力団員だったという細部は主たる疑問とならない。ところが「起承転結」は、始めに部分的な情報しか与えられないので、そこが主題であるかのごとく注力してしまう。

2つ目の問題である報告の前半部分を忘れるという点についても解説しておこう。「スティング」という有名な映画をご存じだろうか。ご存じなければ小説でもドラマでも良いので、結末で予想外の大ドンデン返しするストーリーを思い出してほしい。見終わった後に、「そうか。あのシーンはこのためにあったのか。」などと回想するが、全てを思い出すことはできない。この手のストーリーは、「結論」を知った後に二度目を見るといろいろな事が見えてくる。一般的に人間が一度に覚えられる事象は3~4つ程度、多くても7つまでだそうだ。「起承転結」ですばらしいストーリーの報告書を作っても、きっちりと理解してもらうためには、二度読んでもらう必要がある。

「起承転結」のストーリーで報告することがいかに危険なことであるか理解いただけただろうか。読者の周囲にある様々な報告書を見直していただきたい。「結論」から書いていない報告書が意外と多いはずだ。

「時系列」のストーリーボードの例

「時系列」で述べる場合は、もっと理解できない。「時系列」は時間の経過に沿って事象を知る場合以外は使うべきではない。例えば、調書だとか、事故発生後の対応だとか、プロセスなどの手順説明だけである。図7に「時系列」のストーリーボードの例を示した。住民の通報から逮捕までにどれだけの時間がかかったかを知るためであればこれで良いが、はじめてこれを見せられると、それぞれの事象の関係を見つけ出すために何度も読み直す必要がある。例えば、図7の3日昼過ぎの「短銃を借りた」は、最後の「所持を発見され逮捕された」につながるが、こういった関連を見つけにくい。同じく最初の「多額の借金」は、最後の「金品を奪おうとした」の理由であるが、良く見ないと関係が見えてこない。見方によっては、最初の借金については他と無関係に述べられているように見え、この男がどんな人間か紹介しているだけに見える。この例は単純だが、複雑な内容を「時系列」で説明すると、こういった関係はほとんど理解できない。また、この例では「結論」が最後に来ているが、時間に沿って列挙するだけの方法なので、「結論」がどこに出てくるかわからない。

図5、6、7の3例をよく比較して見てほしい。「結論」から述べる重要性が良く理解いただけるだろう。なお、本連載はコンサルのテクニックを「盗む」ことが目的なので、即実践できるお手軽な手法を次に紹介しよう。

第1回-05 成果物、報告書作成の実践手法

これ1つで「何でも来い」の実践手法

ここまで解説した内容でストーリーボードを構成すれば、簡潔で理解しやすい報告書を作成できる。しかし、多くのスタッフを抱え時間的な余裕がないプロジェクトでは、前述の内容を教育し周知することは難しい。そこで、以下に紹介する方法を覚えておこう。スタッフに細かな指導をしなくとも、以下のテンプレートを活用すると手軽に「結論」から述べる報告書を作らせることができる。

「What-Why-How to」法

「What-Why-How to」法とは、図8に示す通り、文書を3つの章立てで作らせることにより、「結論」から述べる報告書や提案書を作成する方法だ。

第1章の「What?」は、「我々はなぜそれをすべきか?」というタイトルのもと、「導入部」と「結論」だけを記載する。図8のようにそれぞれ各1ページで計2ページだけの構成で良い。2ページだと内容が薄いとむやみにページ数を増やすことは避けよう。忙しい役員などは結果だけを知りたがるため、シンプル・イズ・ベストを心がける。次に第2章の「Why?」で「結論」の「理由」を述べる。この「理由」は、先に図4で示したように、大きな「理由」を先に述べ、次に詳細な「理由」へと説明して行く。そして最後の3章の「How to do?」で、具体的な進め方、体制、スケジュール、見積もり、制限事項や取り決め事といったことを記載する。

より具体的にイメージできるよう表1にWebによるセルフ購買システムを導入に関する報告例を示した。紙面の都合でパワーポイントの報告書例を掲載できないため、要点だけを表形式でまとめている。

「決議-討議-次のアクション」法

報告書の類で頻繁に作成するのが会議の議事録だろう。議論が紛糾した会議などを議事録にまとめるのは意外と骨が折れる。また、頻繁に議事録が送られて来る管理職方は、討議内容がダラダラと書かれた議事録にうんざりしている方が多いだろう。そこで、「結論」から述べるストーリーボードを活用し、テンプレート化しておくと作成する側も読む側も効率的だ。図9に示す通り、会議の「結論」である「決議事項」を最初に述べる。その後に、その決議に至った「理由」を「討議内容」に記載する。そして最後の「次のアクション」に「決議事項」で確定した内容を今後どのように進めて行くか記載する。

なお、一方的に情報を伝えるだけの報告会や連絡会などの場合、ここで紹介するフォーマットは必要ない。しかし、そのような会議が本当に必要であるか再検討することをお勧めする。単に状況報告だけであれば、今や電子メールで十分に用が足りるだろう。また、「決議事項」なしに終わる会議についても、この会議は何を決めるのか、目的を明確にしてスタートするよう進め方を再検討すべきだ。

著名人の話法

最後に文書ではなく、口頭で話す場合について解説する。冒頭で述べた通り、「ブロードキャスター」の元コメンテーターや「朝まで徹底討論」の論客たちは、論理的で解りやすい説明を行う。実は彼らもここで紹介した「結果」から述べるという方法を活用している。テレビなどで彼らの話法を注意して聞いてもらいたい。まず始めに「結論」をズバリと言う。その後に「理由は3つあります。」と付け加え順に理由を説明して行く。特に「朝まで徹底討論」などを見ていると、発言者が最初に「結論」をズバッと言い、周囲からワッと反論が返ってくるが、それを遮りながら「理由」を述べる。白熱していても、内容や主題はきっちりと理解できる。まれにディベートに不慣れな評論家や政治家が出演すると、「結論」を述べずに「理由」から話し出し、俵宗一郎に話を切られてしまう。「理由」が3つあるとか、ポイントは2つだとか言わずに「理由」から話し出すと、どこまで話が続くのか不明だし、「結論」が解らずに聞いても、賛成意見か反対意見か解らない。このため、「何が言いたいの解らないよ」とピシャッと話を切られてしまうのだ。

では最後に、「結論」を話し「理由」を述べる話法を、ニュースのネタを例にとって見てみよう。

キャスター:「オレオレ詐欺の被害者は3万人に達し、全国規模で広がっています。そして、その犯行に及んでいるのはニート世代の若者グループです。冷静に判断すればひっかかるような手口ではないのですが、いかがでしょうか。」

コメンテーター:「これを単なる詐欺事件として考えるべきではないと思います。一種の社会現象として捕らえ、社会全体で対策を検討すべきです。その理由は3つあります。 

1つ目の理由は、お金持ちだけれど孤独な老人がいかに多いかということです。核家族化が進んだうえに老齢化が襲い、親子の関係か疎遠になっている証でしょう。家族の絆や地域での老人ケアを考え直す必要があります。

理由の2つ目は、ニート世代と呼ばれる若者と老人の格差問題です。近年の就職難から、若者世代の収入源は激減しています。犯罪に走る若者が多い一方で、使い切れない年金を子供に仕送りしている老人がいます。こういった格差を政府主導で解消する必要があるでしょう。

最後に3つ目の理由は、デジタル機器などコミュニケーションツールのリテラシーです。携帯電話が普及し、いつでもどこからでも電話をすることができるようになりました。今事故を起こしたとか、今警察にいるとか、どこからでも連絡を取れるため、臨場感のある嘘を演出できます。デジタル機器はコミュニケーション手段を格段に進歩させましたが、高齢者はこれについて行けません。相手が誰なのか知るための番号表示などの使い方を、お年寄りにわかりやすく理解してもらう方法が必要でしょう。」

報告会の質疑応答などで、顧客の役員から鋭い質問を受け、間髪入れずに答え出すが、結局のところ何が言いたいのか解らないというケースを良く見る。回答した後に「これでお答えになっているでしょうか?」などと付け加えるが、残念ながら答えになっていない。人前で臆せず饒舌に語る方にこういうケースが多い。話ながら次に言うことを考え、次から次へと話すが、このやり方は意外に伝わりにくい。質問を受けたら一旦じっくり考え、結論を探すべきだ。多少の沈黙など気にする必要はない。頭の中で結論を決めて、理由を3~4つ考える。2つ以下だと論拠が弱く思われるし、5つ以上になると受け手が消化できない。慣れてくると、相手の質問を聞きながら「結論」と「理由」を考えることができるようになり、間を開けずに回答できるようになる。今回紹介した話法を身につけると、同じ内容でも話し方によって、相手の理解に大きな差が出ることに気づくだろう。

以上、今回はコンサルタントのテクニックの基本であるストーリーボードを解説した。次回から数回の連載で、コンサルタントのロジックの基礎である「仮説検証法」や、説得力の高いチャートの作成法など、より具体的で実践的な内容に踏み込んで行こう。